会社が元監査役に重加算税等について損害賠償請求した事案

 自動車部品メーカー「無限」(埼玉県)が、脱税事件で重加算税と延滞税の支払いを余儀なくされたとして、法人税法違反罪で実刑が確定した元監査役に約9億4千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は16日、約6億6千万円の支払いを命じた。

 このニュースは、会社が元監査役に直接損害賠償請求をしているようで、株主代表訴訟ではないみたいです。金額も大きいのでメモ的に残しておきます。

「脱税摘発の現場から」 第二部 税務署なんて恐くない! の公開

 「脱税摘発の現場から」 第二部 税務署なんて恐くない! の公開を始めました。

 「第一部 脱税摘発の現場から」の続編であり、実際の相談事例や体験をもとに、税務調査の実態や税制の抜け穴、立会いの仕方等について、山根治公認会計士・税理士が詳細に解説します。

徴税現場の模様

 具体的には、納付期限を20日過ぎても支払われなかった場合、滞納者に督促状を送付。支払いに応じなければ再度督促状を送付し、本人を訪問するなどして滞納者の実態を把握する。
 そして、一括での支払いが困難な滞納者には分納にも応じる姿勢を示す。それでも徴収に応じない場合、財産の差し押さえを実施するという。

 興味深い記事です。
 
 国税における納税の猶予期間は、原則1年、最大2年です(国税通則法第四十六条)。
 他方、生活を著しく窮迫させるおそれがある場合など、滞納処分の執行停止が認められます(国税徴収法第百五十三条)。しかも3年間継続すると納税義務が消滅します。ただし、滞納処分の執行停止は要件が厳格なので適用は難しいかもしれません。
 
 国税地方税は異なりますが、徴税の基本姿勢は同じです。
 滞納処分の執行停止が受けられなくても、税金を支払う意思を示し、毎月少しずつでも分納し続ければ、財産が差押される可能性は低いものと思われます。これは、憲法第二十五条で保証される生存権に関わることです。
 
 なお、納税者の権利については下記ページを参照ください。
 
税務調査の注意点:納税者の権利とは
http://tax.ma-bank.com/faq.php?id=q2

「脱税摘発の現場から」の公開

 「脱税摘発の現場から」の公開を始めました。

 実際の相談事例や体験をもとに、税務調査の実態や税制の抜け穴、立会いの仕方等を、山根治公認会計士・税理士が解説します。税理士必見!

パチンコ三共筆頭株主企業:法人税約10億円所得隠し

 パチンコ三共の大株主である有限会社マーフコーポレーション(以下、マーフ社という。株式保有割合15.42%)が、東京国税局の調査によって法人税約10億円の所得隠しを指摘されたとのこと。ここで話が終らないのは、報道によると、マーフ社の社長を三共の監査役が兼務していたことと、さらにその人物が税理士であったことです。

所得隠しを指摘されたのは、毒島会長が100%出資する資産管理会社「有限会社マーフコーポレーション」(豊島区)。毒島会長の保有していた株式や、運用益で購入した不動産などを管理。3月末現在、三共の筆頭株主として15・42%の株式を保有している。1998年の設立当初から、三共の監査役を務める税理士が社長を務めている。

 税務調査では、三共の監査役でもある税理士が社長を務めるマーフ社が行なった、その社長を含む4人に対する約10億円の利益供与について問題になったようです。

 マーフ社は2007年、保有していたパチンコ用のプリペイドカード発行会社「日本レジャーカードシステム」(非上場)の株式約2万株を、三共の監査役を含むマーフ社の役職員ら4人に取得価格とほぼ同額の計約2万円(1株1円)で売却。数か月後、この4人から計約10億円(同約5万円)で買い戻していた。
 売却から買い戻しまでの数か月の間に株の価値が約5万倍に上昇するのは不自然で、東京国税局の調査で、この間の時価は計約10億円と認定されたという。

 非上場会社の株式が数ヶ月で約5万倍になるというのは、まずありえない話で、報道内容が正しいのであれば、当事者であるマーフ社の社長の行動は、税理士という職業も相まって相当問題だと思います。もちろん、マーフ社は三共の毒島秀行会長が100%出資している会社なのでオーナーの意向が強く働いていることは間違いありませんが、このような人物が上場企業である三共の監査役を兼務してもいいのでしょうか。
 4人に渡った約10億円の利益に対しては所得税と住民税がかかります。非上場株式の株式譲渡益ならば合わせて20%ですが、役員賞与ならば合わせて最高税率50%がかかります。その差30%。すなわち単純計算で10億円×30%=3億円、税負担が軽減されます。報道では、株式を譲渡した4人に対して役員賞与として処理したか否かは触れられておらず断定できませんが、株式譲渡益として4人は確定申告した可能性があります。
 なお、三共の有価証券報告書を調べると監査役の税理士が分かりますし、マーフ社の住所が分かります。さらにインターネットで調べると、マーフ社と同一住所の税理士事務所も分かります。
 結果、マーフ社の社長であり、三共の監査役である税理士は、石山俊明税理士だと思われます。

ヤフー:法人税約540億円申告漏れ

 ヤフーが東京国税局から法人税の申告漏れを指摘されました。ヤフーのプレスリリースを読むと、国税当局に対する激しい怒りを感じます。

組織再編税制における行為計算の否認規定は、会社の行為を無視して当局が課税を行うことができる強権であり、その適用に当たっては慎重な判断が必要であると考えています。その点、税務調査中に当社が十分に説明を行ったにもかかわらず、当局の指摘は一方的で、予断に満ちており、慎重さを欠いています。このような法適用は、租税法律主義に反し、納税者の権利を著しく阻害する職権濫用行為だと考えます。

 キャッシュのあるところから税金を取るというのが、国税当局の方針のようですが、今回の更正処分はどのような結末になるのでしょうか。
 ところで、記事では以下のような気になる記述がありました。

 ヤフーとソフトバンクの契約に基づき、追徴課税額約265億円はソフトバンクが負担する。ソフトバンクは事業税などを差し引いた約248億円を10年4〜6月期に特別損失として計上する。

 これはどういうことなのかと、先ほどのプレスリリースを確認してみると、以下のような記述がありました。否認される可能性を織り込んだ買収契約だったとのこと。

約265 億円の追徴税額の発生を見込んでおります。しかしながら、当社と株式の取得先であるソフトバンクとの株式譲渡契約において、買収価格の算定の基礎となった繰越欠損金が税務当局により否認された場合は、最終決着がつくまで、その金額分が減額修正される契約を締結しており、追徴税額分をソフトバンクが減額修正として負担します。

平成21年度査察白書

 国税庁が前年度に行われた査察の概要を公表しました。
 
平成21年度 査察の概要 | 国税庁
http://www.nta.go.jp/kohyo/press/press/2010/sasatsu/
 
 注目したのが査察事件の一審判決の状況。毎日新聞の記事では触れていませんが、なかなか興味深いことが分ります。

6 査察事件の一審判決の状況

主要ポイント
 ○ 平成21年度中に一審判決が言い渡された件数は141件であり、すべてについて有罪判決が出され、実刑判決が7人に出されました。

 有罪率は100%ですが実刑率はわずか5%。95%が執行猶予付の判決を受けています。思ったよりも執行猶予になる確率が高いです。
 次に1件当たり犯則税額(脱税額)を見てみます。

H191億2,700万円
H207,900万円
H218,600万円
 だいたい毎年1億円前後。お金があるところにはあるのですね。
 ところで「2 脱税額の状況」では「告発した事案1件当たりの脱税額は、平均で1億7,100万円となっています。」と記されています。念のため、その他の年も見てみると、1億5,000万円前後ということが分ります。
H171億5,300万円
H181億6,700万円
H191億9,500万円
H201億6,300万円
 すなわち、

  • 1億5,000万円の脱税容疑で告発したところ3割減の1億円で有罪になった、
  • 100%の有罪率だが95%は執行猶予だった、

ということです。
 こういう数字を見ると様々な疑念が沸いてきます。本来ならば完全無罪であるべき事件が、「有罪率100%」という国税のメンツを守るために、無理やり有罪にされているのかもしれません。
 

 このうち悪質だとして検察庁に告発したのは149件(同4件減)で、脱税額は255億円(同6億円増)。税目別では、相続税が過去5年間で最多の6件(同2件増)で、前年度告発がなかった源泉所得税も5件に上った。業種別では不動産業(15件)や建設業(9件)などが多く、都市部での地価高騰の影響とみられる。